2010-10-01から1ヶ月間の記事一覧

第五十四段 夢路の露

むかし、男、つれなかりける女に言ひやりける*1、 行きやらぬ*2夢路*3をたのむ袂*4には天つ空なる露や置くらむ*5 *1:冷淡だった女に(次の歌を)詠み送った *2:行き着くことのない *3:(現実では逢えないので)夢の中で(彼女に)逢いに行く通い路 *4:たもと…

第五十三段 夜深き鶏

むかし、男、あひがたき女にあひて*1、物語などするほどに*2、鶏の鳴きければ*3、 いかでかは鶏の鳴くらむ人知れず思ふ心はまだ夜深きに*4 *1:(いつもは)なかなか逢えない女と逢って *2:(愛を)語ったりしてるうちに *3:(朝に鳴くはずの)鶏が鳴いたので…

第五十二段 かざりちまき

むかし、男ありけり。人のもとよりかさなりちまき*1おこせたりける返りことに*2、 あやめ刈り君は沼にぞまどひける*3われは野にいでて狩るぞわびしき*4 とて、雉をなむやりける*5。 *1:飾り粽(ちまき)→ http://bit.ly/d43OwF *2:人のとこから飾りちまきを…

第五十一段 植ゑし植ゑば

むかし、男、人の前栽*1に菊植ゑけるに*2、 植ゑし植ゑば*3秋なき時や咲かざらむ*4花こそ散らめ根さへ枯れめや*5 *1:植え込み *2:人んちの植え込みに菊を植えたときに(次の歌を詠んだ) *3:心を込めて植えれば *4:「秋っつうもんが無い」なら咲かないことも…

第五十段 あだくらべ

むかし、男ありけり。恨むる人を恨みて*1、 鳥の子を十づつ十は重ぬとも*2思はぬ人を思ふものかは*3 と言へりければ、 朝露*4は消えのこりてもありぬべし*5誰かこの世を頼みはつべき*6 また、男、 吹く風に去年の桜は散らずとも*7あな頼みがた人の心は*8 ま…

第四十九段 うら若み

むかし、男、妹のいとをかしげなりけるを見をりて*1、 うら若み寝よげに見ゆる若草を*2人のむすばむことをしぞ思ふ*3 と聞えけり*4。返し*5、 初草のなどめづらしき言の葉ぞ*6うらなくものを思ひけるかな*7 *1:妹がめっちゃ可愛いのを見ていて(次の歌を詠ん…

第四十八段 今ぞ知る

むかし、男ありけり。馬のはなむけせむとて*1人を待ちけるに*2、来ざりければ*3、 今ぞ知る苦しきものと*4人待たむ里をば離れず訪ふべかりけり*5 *1:送別会をやろうぜっつって *2:人を待ってたのに *3:来なかったから(次の歌を詠んだ) *4:苦しいもんだと、…

第四十七段 大幣

むかし、男、ねむごろにいかでと思ふ女ありけり*1。されど、この男をあだなりと聞きて*2、つれなさのみまさりつつ、言へる*3、 大幣*4の*5引く手あまたになりぬれば*6思へどえこそ頼まざりけれ*7 返し、男*8、 大幣と名にこそ立てれ*9流れても*10つひに寄る…

第四十六段 目離るとも

むかし、男、いとうるはしき友ありけり*1。かた時さらずあひ思ひけるを*2、人の国へ行きけるを*3、いとあはれと思ひて別れにけり*4。月日経て、おこせたる文に*5、「あさましく、対面せで、月日の経にけること*6。忘れやし給ひにけむと*7、いたく思ひわびて…

第四十五段 行く螢

むかし、男ありけり*1。人のむすめのかしづく*2、いかでこの男にもの言はむと思ひけり*3。うちいでむことかたくやありけむ*4、もの病みになりて、死ぬべき時に*5、「かくこそ思ひしか」と言ひけるを*6、親聞きつけて*7、泣く泣く告げたりければ*8、まどひ来…

第四十四段 われさへもなく

むかし、あがた*1へ行く人に*2、馬のはなむけせむとて*3、呼びて*4、うとき人にしあらざりければ*5、家刀自*6、盃ささせて*7、女の装束かづけむとす*8。あるじの男*9、歌よみて、裳*10の腰にゆひつけさす*11。 いでて行く君がためにとぬぎつれば*12われさへ…