2010-12-01から1ヶ月間の記事一覧

第六十五段 在原なりける男

むかし、おほやけ*1おぼして使うたまふ女の*2、色許されたるありけり*3。大御息所とていますかりけるいとこなりけり*4。殿上にさぶらひける在原なりける男の、まだいと若かりけるを*5、この女あひ知りたりけり*6。男、女方許されたりければ*7、女のある所に…

第六十四段 玉すだれ

むかし、男、みそかに語らふわざもせざりければ*1、いづくなりけむあやしさによめる*2、 吹く風にわが身をなさば*3玉すだれひま求めつつ入るべきものを*4 返し*5、 取りとめぬ風にはありとも玉すだれ*6誰が許さばかひま求むべき*7 *8 *1:(ある女と)ひそか…

第六十三段 つくも髪

むかし、世心つける女*1、いかで心なさけあらむ男にあひ得てしがなと思へど*2、言ひいでむも頼りなさに*3、まことならぬ夢語りをす*4。子三人を呼びて、語りけり*5。ふたりの子は、なさけなくいらへてやみぬ*6。三郎なりける子なむ*7、「よき御男ぞいで来む…

第六十二段 われにあふみ

むかし、年ごろおとづれざりける女*1、心かしこくやあらざりけむ*2、はかなき人の言につきて*3、人の国なりける人に使はれて*4、もと見し人の前にいで来て*5、もの食はせなどしけり*6。夜さり*7、「このありつる人たまへ」と、あるじに言ひければ*8、おこせ…

第六十一段 染河

むかし、男、筑紫まで行きたりけるに*1、「これは、色好むといふ好き者*2」と、すだれのうちなる人の言ひけるを聞きて*3、 染河*4を渡らむ人のいかでかは色になるてふことのなからむ*5 女、返し*6、 名にし負はば*7あだ*8にぞあるべきたはれ島*9浪の濡れ衣着…