2010-10-04 第四十四段 われさへもなく むかし、あがた*1へ行く人に*2、馬のはなむけせむとて*3、呼びて*4、うとき人にしあらざりければ*5、家刀自*6、盃ささせて*7、女の装束かづけむとす*8。あるじの男*9、歌よみて、裳*10の腰にゆひつけさす*11。 いでて行く君がためにとぬぎつれば*12われさへもなくなりぬべきかな*13 この歌は、あるが中におもしろければ*14、心とどめてよまず、腹にあぢはひて*15。 *1:県(あがた)。地方の国 *2:地方へ行く人のために *3:送別会やろうよー!っつって *4:呼んで *5:遠慮するような間柄の人でもなかったから *6:主婦が *7:盃をすすめさせて *8:(禄として)女の装束を与えようとする *9:(それを見て)主人の男は *10:→ http://bit.ly/aitU3D *11:歌を詠んで、裳の引き腰(飾り紐)に結い付けさせる *12:旅立っていくあなたのためにと脱いだから *13:俺のほうも裳(喪=悪いこと)がなくなるに違いねえ *14:数ある歌の中でも趣のあるものだから *15:こまけぇこたぁ気にせずに腹で味わって!