第四十四段 われさへもなく

むかし、あがた*1へ行く人に*2、馬のはなむけせむとて*3、呼びて*4、うとき人にしあらざりければ*5、家刀自*6、盃ささせて*7、女の装束かづけむとす*8。あるじの男*9、歌よみて、裳*10の腰にゆひつけさす*11

いでて行く君がためにとぬぎつれば*12われさへもなくなりぬべきかな*13

この歌は、あるが中におもしろければ*14、心とどめてよまず、腹にあぢはひて*15

*1:県(あがた)。地方の国

*2:地方へ行く人のために

*3:送別会やろうよー!っつって

*4:呼んで

*5:遠慮するような間柄の人でもなかったから

*6:主婦が

*7:盃をすすめさせて

*8:(禄として)女の装束を与えようとする

*9:(それを見て)主人の男は

*10:http://bit.ly/aitU3D

*11:歌を詠んで、裳の引き腰(飾り紐)に結い付けさせる

*12:旅立っていくあなたのためにと脱いだから

*13:俺のほうも裳(喪=悪いこと)がなくなるに違いねえ

*14:数ある歌の中でも趣のあるものだから

*15:こまけぇこたぁ気にせずに腹で味わって!