第四十三段 しでの田長

むかし、賀陽の親王*1と申す親王おはしましけり。その親王、女をおぼしめして*2、いとかしこう恵み使うたまひけるを*3、人なまめきてありけるを*4、われのみと思ひけるを*5、また人聞きつけて、文やる*6。ほととぎすの形を書きて*7

ほととぎす汝が鳴く里のあまたあれば*8なほうとまれぬ思ふものから*9

と言へり*10。この女、けしきをとりて*11

名のみ立つしでの田長*12は今朝ぞ鳴く*13いほり*14あまたとうとまれぬれば*15

時は五月になむありける*16。男、返し、

いほり多きしでの田長はなほ頼む*17わが住む里に声し絶えずは*18

*1:かやのみこ

*2:ご寵愛になって

*3:めっちゃ目をかけて召し使ってたが

*4:ある男が(その女に)言い寄っていたのを

*5:自分だけと思ってたのに

*6:もう一人の男が聞きつけて(その女に)手紙を送る

*7:ほととぎすの絵入りで

*8:ホトトギスよ、お前が鳴く人里がたくさんあるから

*9:やっぱ疎ましく思っちゃうわ、愛してはいるけどさ…

*10:と詠んだ

*11:この女は、(男の)機嫌を取って(次の歌を返した)

*12:しでのたおさ、ホトトギスの異名→ http://bit.ly/cso70i or http://bit.ly/ajfZ5o

*13:浮き名ばかり立つ死出の田長(田植えを勧める鳥)は今朝は(悲しんで)鳴いてます

*14:盧、農作業のための仮小屋→ http://bit.ly/aRU5QX

*15:声をかける所がたくさんある(多くの男と関係してる)って嫌われちゃったので…

*16:時はちょうど五月(田植えの時期)だった

*17:声をかける所が多いホトトギスでもいいわやっぱり

*18:俺の住む里にも声をかけてくれるならね