第三十三段 菟原の郡

むかし、男、津の国*1、菟原の郡*2に通ひける*3、女*4、このたび行きてはまたは来じ*5と思へるけしきなれば*6、男*7

蘆辺より満ち来る潮のいやましに*8君に心を思ひますかな*9

返し*10

こもり江*11に思ふ心を*12いかでかは舟さす棹のさして知るべき*13

ゐなか人の言にては*14、よしや、あしや*15

*1:摂津の国→ http://bit.ly/bG5ClG

*2:むばらのこほり、現兵庫県芦屋周辺→ http://bit.ly/98pKmd

*3:男が津の国、菟原の郡に通ってたんだけど

*4:そこの女が

*5:「(この男は)この度帰って行ったらもう二度と来てくれないかもしれない…」

*6:と思っているみたいだったんで

*7:男は(次の歌を詠んでやった)

*8:蘆(あし=葦、芦)の生える水辺に満ちてくる潮がいよいよ増してくるように

*9:君への心も思いがいよいよ増すことですよ!

*10:(女は次の歌を)返し

*11:草に蔽われて水が見えない沼

*12:こもり江のように(あなたのことを)思っている(あたしの)心を

*13:どうやって、舟を遣るときにさす棹をさすようにそれとはっきり知ることが出来るのよ…

*14:田舎もんの歌にしては

*15:良いかねぇ?悪いかねぇ?