第二十七段 水口に

むかし、男、女のもとに一夜行きて*1、またも行かずなりにければ*2、女の手洗ふ所*3に、貫簀*4をうちやりて*5、たらひのかげに見えけるを*6、みづから*7

わればかり*8もの思ふ人はまたもあらじと*9思へば*10水の下にもありけり*11*12

とよむを*13、来ざりける男*14立ち聞きて*15

水口*16にわれや見ゆらむ*17かはづさへ*18水の下にてもろ声に鳴く*19 (※C釈→*20

*1:(※新婚は本来は三晩連続で通う)

*2:二度と行かなくなったんで

*3:身支度するところ(今で言う洗面台とか)

*4:ぬきす、竹を編んだもの

*5:貫簀をうっちゃってあって

*6:タライに(男の)影が見えたのを

*7:自分から(「影」を女自身の影ということにして)(女は次の歌を詠んだ)

*8:あたしほど

*9:悲しんでいる人はふたりといないでしょ…と

*10:思ったら

*11:水の下(タライに張った水の中)にもいたのね…

*12:あたしほど悲しんでいる人はふたりといない、と思っていたら、水の中にも、いたのね…(←自分の影のこと)

*13:と詠むのを

*14:(その)来なくなったっつう男が

*15:立ち聞きして(次の歌を詠んだ)

*16:みなくち、田んぼの水取り口

*17:水口に俺が見えるのかい?

*18:カエルだって

*19:水の中で声を合わせて鳴くんだぜ…

*20:水口に俺が見えるのかい?…(カエルが水中で一緒に鳴くように)あなたほど悲しんでいるもうひとりってのは、(あなたの影なんかじゃなく)この俺なんだよ…