第十八段 くれなゐに

むかし、なま*1心ある*2女ありけり。男、近うありけり*3。女、歌よむ人なりければ*4、心見むとて*5、菊の花の移ろへるを折りて*6、男のもとへやる*7

くれなゐににほふは*8いづら*9白雪の*10枝もとををに*11降るかとも見ゆ*12

男、知らずよみによみける*13

くれなゐににほふがうへの白菊は*14折りける人の袖かとも見ゆ*15

*1:中途半端に

*2:教養のある

*3:(その女の)近くに住んでいた

*4:歌を詠む人だったので

*5:歌の技量がどれほどか試してみっか、と思って

*6:菊の花の色が変わっちゃってるのを折って

*7:送る

*8:紅に色づいているのは

*9:どこかしら

*10:白い雪が

*11:枝もたわわに、たわむほどに

*12:降り積もってるようにお見受けしますが

*13:(女の歌の本意を)知らないフリをして(次の歌を返しに)詠んだ

*14:紅に美しく色づいているうえに純白な白菊は

*15:(これを)手折った人(あなた)の袖のように見えます