第五段 築地の崩れ
むかし、男ありけり。東の五条わたりに*1、いと忍びて行きけり*2。みそかなる所なれば*3、門よりもえ入らで*4、童べの踏みあけたる*5築地のくづれ*6より通ひけり。人しげくもあらねど*7、たび重なりければ*8、あるじ*9聞きつけて、その通ひ路に夜ごとに人をすゑてまもらせければ*10、行けども*11、えあはで*12帰りけり*13。さて*14、よめる*15、
人知れぬわが通ひ路の関守は宵々ごとにうちも寝ななむ*16
とよめりければ*17、いといたう心やみけり*18。あるじ許してけり*19。
二条の后に忍びて参りけるを*20、世の聞えありければ*21、兄人たちの*22まもらせたまひける*23とぞ*24。
*1:東の五条のあたりに
*2:めっちゃコソコソ通って行った
*3:みそか=ひそか、あんまし人には知られたくない所だったので
*4:門から入ることなんてできなくて
*5:ガキんちょが踏んであけちゃった
*6:土塀の崩れたとこ
*7:人の出入りが多いってわけじゃなかったけど
*8:(その男が通うのが)たび重なったので
*9:(その家の)主が
*10:見張りを置いちゃったから
*11:(その男は)行ったはいいけど
*12:逢えずに
*13:帰った
*14:そんなわけで
*15:(次の歌を)詠んだ
*16:人目を忍んで俺が通う路の見張りはよお、毎晩寝ちゃってくれよ
*17:詠んだので
*18:(その女は)マジでメッチャ心を痛めた
*19:(その家の)主人は(黙認して)見張りをゆるくした
*20:二条の后にコソコソ逢いに通ってたんだけど
*21:世間にウワサが立っちゃったから
*22:后の御兄弟たちが
*23:見張りを置いた
*24:とのこと