第四段 月やあらぬ

むかし、東の五条に、大后の宮*1おはしましける*2、西の対に、住む人*3ありけり。それを*4、本意にはあらで*5、心ざし深かりける人*6、行きとぶらひけるを*7、睦月*8の十日ばかりのほどに、ほかにかくれにけり*9。あり所は聞けど*10、人の行き通ふべき所にもあらざりければ*11、なほ憂しと思ひつつなむありける*12。またの年*13の睦月に、梅の花ざかりに、去年*14を恋ひて*15行きて*16、立ちて見、ゐて見、見れど*17、去年に似るべくもあらず*18。うち泣きて*19、あばらなる板敷*20に月のかたぶくまで*21ふせりて*22、去年を思ひいでてよめる*23

月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身一つはもとの身にして (※C釈→*24

とよみて、夜のほのぼのと明くるに*25、泣く泣く帰りにけり*26

*1:太后仁明天皇の女御)、第三段の「二条の后」の叔母

*2:いらっしゃった、(その)

*3:二条の后、第三段参照

*4:その人を

*5:あるまじきことと思いつつも(←入内が内定してたから)

*6:深く愛していた人が

*7:ちょいちょい訪れてたんだけど

*8:1月(正月)

*9:よそへ行ってしまった

*10:居場所は(誰かに)聞いて知ってたけど

*11:人が通える所でもなかったから(要するに入内してたんで)

*12:今までどおりブルーな感じだった

*13:翌年

*14:こぞ(前の年)

*15:恋しく思って

*16:(そこへ出かけて)行って

*17:立って見てみたり座って見てみたりして、とにかく見るんだけど

*18:去年と全然違って見える

*19:泣きながら

*20:ボロッボロの縁側

*21:月が傾くまで

*22:横になって

*23:去年を思い出して(次の歌を)詠んだ

*24:(上の句・下の句をひっくり返しちゃいますねw→)「俺が昔のままの自分じゃない(愛する人をうしなった)のだから、月も春も、昔の月や春であるわきゃないんだよな…(;_;)」

*25:夜が仄々と明ける頃に

*26:泣きながら帰った。。。